Prologue
3期目、議員という仕事の見え方が変わってきました。
別海啓晴会という個人政治団体を立ち上げて、もう随分経ちます。ホームページも一度作ったきりしばらく放っておいたのですが、ここに来て改めて情報発信の場を整え直すことにしました。
これまでの議員活動では、自分自身も様々な経験を重ね、議員になってからも勉強を重ねて、自分の能力をできる限り高めながら、地域のあらゆることに主体的に向き合おうとしてきました。「地域のすべてを」と言えば言い過ぎになりますが、それに近い気概で走ってきた——というのが、正直なところです。
その見方が、ここ数年で大きく変わってきました。
きっかけは、AIが仕事に入り込んできたことでした。AIをうまく活用するようになって初めて、地方議員として自分が本当に大切にしなければいけない能力は何なのか、何を自分が担うべきで、何はそうでないのか——そういったことを、落ち着いて見つめ直すことができるようになった気がしています。議員活動そのものが、以前とは別のかたちに変わりつつある、という手応えがあります。
この変化を、自分のためにも、他の誰かのためにも、記録しておきたい。このサイトは、そのささやかな記録のための場所です。
Chapter 1
地方議会には、国会とは違う仕組みがある。
地方議会の議員は、国会議員とは異なる「二元代表制」のもとで活動しています。首長(市町村長)と議会がそれぞれ住民から直接選ばれ、互いを牽制し合いながら地域の未来を決めていく——そういう構造です。国政のような「与党と野党」の関係ではありません。
この仕組みの含意は、想像以上に深いものがあります。首長は強い執行権限を持ちますが、議会もまた住民から直接委任された存在として、対等にものを言う立場にある。地方議員は「政党の駒」ではなく、住民から直接付託された個人として判断することが求められているのです。
ではこの仕組みのなかで、議員に本当に求められる力とは、いったい何なのでしょうか。私はここ数年、ずっとこの問いを自分のなかで転がし続けてきました。

Chapter 2
議員に求められるのは、情熱と気づき、そして独自の視点。
私はそれを、情熱であり、気づきであり、独自の視点だと考えるようになりました。議員という仕事の本質は、意外にもこの3つにほとんど集約される——と、現場で数多くの判断を重ねてきた実感から、私はそう思っています。
よくある誤解について
「良い議員とは、行政にも精通していて、様々な能力を兼ね備え、バリバリと仕事をこなせる人物だ」——そう思われている方は多いかもしれません。そうした万能型の政治家像は、おそらく国会議員をイメージしたものだと思います。
日本の国政は議院内閣制です。総理大臣は国会議員のなかから国会によって選ばれ、各省庁の大臣の多くも国会議員が務めます。つまり国会議員は、立法府の一員でありながら、そのまま行政のトップに就きうる立場にある。だから国政では、法案の立案、官僚との折衝、党内での調整まで、「行政を動かす力」が大きな比重を占めます。万能型の政治家像は、この議院内閣制という仕組みから自然に生まれてくるイメージなのです。
しかし、地方議員の位置づけはこれとは根本的に異なります。前章で述べた通り、地方自治は二元代表制です。行政を運営するのは首長(市町村長)であり、首長は議会とは別に住民から直接選ばれ、専門の職員を率いて執行にあたります。つまり行政を動かすことは、そもそも地方議員の仕事の中心ではないのです。
では地方議員に本当に求められる役割は何か。首長と行政の仕事を住民の視点から監視し、補完し、ときに修正すること。そして、住民一人ひとりの暮らしから立ち上がってくる「まだ言葉になっていない課題」を拾い上げ、政策の場に乗せていくこと。ここに必要なのは、行政手腕そのものよりも、情熱・気づき・独自の視点の方なのです。
それぞれ、もう少し丁寧に説明させてください。
① 情熱——地域を「自分ごと」として受け止める力
情熱というと精神論のように響きますが、私が指しているのはもっと具体的なものです。誰に頼まれたわけでもないのに夜中に気になって調べてしまう、ある住民の顔が浮かんで気になって電話してしまう、現場に行けば何かわかるはずだと思って車を走らせてしまう——そういう内発的なエネルギーのことです。
これは「関心がある」「詳しい」とは違います。関心や知識は努力で後から積み上げられますが、情熱は外から補うことができません。そして住民も有権者も、この情熱の有無を肌で感じ取ります。政策の中身以前に、議員がどれだけ地域を自分ごととして背負っているかは、ほぼ隠せないのです。
情熱は、AIでは決して代替できません。AIはこちらが問いかけた範囲で応えますが、「問わずにはいられない」気持ちを持つのは人間の側の仕事です。
② 気づき——まだ誰も言葉にしていない違和感を拾う感度
2つ目は、細やかな違和感への感度です。「なんとなくおかしい」「いつもと何かが違う気がする」——統計に出る前の段階、誰も問題として言語化する前の段階で、何かが起きていることを察知する力を、私は気づきと呼んでいます。
議会に上がってくる議案や資料は、すでに誰かの手で整理された後の情報です。その背景で何が起きていて、何が抜け落ちているのかを感じ取るには、日頃から現場を歩き、人に会い、数字を眺めながら「あれ?」と思える感覚が必要になります。これは短期間で身につくものではなく、地域に根を張り、時間をかけて耕していく種類の力です。
気づきもまた、AIが肩代わりできない領域です。AIは与えられた情報の中でパターンを見つけるのは得意ですが、「そもそも、ここに何か見えていないものがあるのでは?」という問いを立てるのは、まだ人間にしかできません。
③ 独自の視点——その人でなければ出てこない切り口
3つ目は独自の視点。同じ事実を見ても、他の人と少し違う角度から解釈できる力のことです。
これは才能の話ではありません。経歴、バックグラウンド、これまでの人生で触れてきた人や仕事、関心を持ち続けてきた領域——それらは人によって必ず違い、その違いこそが議会という合議体の価値の源泉です。酪農家だった議員、主婦だった議員、会社員だった議員、若くして議会に入った議員、私のようにITやAIを日常的に触ってきた議員。それぞれの来歴からしか出てこない視点が、議会には必要なのです。
「みんなと同じ意見」を言うためだけなら、議員は何人もいりません。議員個人の色が、そのまま議会の多様性になる。だから独自の視点は、わがままでも個人プレーでもなく、合議体にとっての貴重な資源だと私は考えています。
そしてこれも、AIには持てません。AIは学習データの平均値に近いものを出す方向に傾きます。個人の色を濃く残したまま発言できるのは、あくまで人間の側です。
逆に言えば、この3つさえあれば、議員には誰でもなれる。特別な学歴も、政治家一家の出自も、潤沢な資金もいりません。「情熱があれば、誰もが議員になれる」というこのサイトの主題は、そこから来ています。
そしてもう一度強調しておきたいのは、情熱・気づき・独自の視点というのはどれも人間にしか持てないものだという点です。AIにこれを代行してもらうことはできません。ここがこの後の話——「AIは足場である」——の出発点になります。
Chapter 3
議員個人ではなく、合議体を支えるフレームワークを設計したい。
もうひとつ、私が持っている問題意識があります。それは「議員個人の能力」に頼りすぎる構造への違和感です。
ある議員が有能だからうまく回る、ある委員長が気配りできる人だから会議が円滑に進む。これは大切なことですが、属人的な構造は長続きしません。人は代わるからです。
私が目指しているのは、議員個人を鍛えることではなく、合議体(議会そのもの)を支えるフレームワークを設計することです。誰が議員になっても、ある程度の質で議論と意思決定ができる仕組み。議員のキャラクターに依存しすぎない、共通のインフラ。そういうものを少しずつでも残していきたい。
AIはそのための強力な手段です。AIが作るのは個々の議員の言葉ではなく、議員たちが共有できる土台です。このサイトで紹介しているプロジェクトも、その多くは「私個人の生産性を上げる道具」ではなく「議会という合議体が使えるインフラ」として設計しています。
Chapter 4
でも、目の前には膨大な事務作業がある。
理念だけを語っても始まりません。現実に議員活動には、膨大な事務作業・調査・情報収集が伴います。
議事録を読み込む。計画書を当たる。他自治体の事例を調べる。住民の声を集め、整理する。議案を読み解く。そして一般質問を組み立てる。——それだけで一日が終わることも少なくありません。
単に「時間が足りない」という話ではないのです。負荷が高すぎると、判断の質が落ちる。気づくはずのことに気づけない。情熱・気づき・独自の視点という本質的な仕事に回す余力が、事務作業に食われてしまう。この構造こそ、地方議会が長年抱えてきた隠れた課題だと私は考えています。
Chapter 5
AIの役割は、建物ではなく「足場」。

AIの役割は、この「足場」を整えることです。調査を効率化し、情報を整理し、市民との対話を支援する。議員の人間としての本質——情熱や直感、共感——を置き換えるのではなく、それらがより発揮されるための基盤をつくる。
建物を建てるのはあくまで人間です。AIは足場を組み、資材を運び、危険な高所作業を肩代わりする。どんなに便利になっても、最終的に何を建てるか、どんな質感の壁を選ぶか、どの方角に窓を開けるかを決めるのは、人間の側でなくてはいけません。
私はこの役割分担を、常に自問するようにしています。「このタスクはAIに任せて大丈夫か」「この判断はどうしても自分がする必要があるか」——迷ったときは、情熱・気づき・独自の視点に触れる部分は人間が、それ以外は積極的にAIにという線引きを、自分のなかで持ち続けています。
AIは便利だから使うのではありません。議員が議員らしい仕事に集中するために使う。目的と手段を取り違えないこと。これが、私の基本姿勢です。
Chapter 6
実践は、議会の内側から地域運営まで、同心円状に広がっていく。
私の取り組みは、大きく4つの層に分かれています。中心から外側に向かって、射程が少しずつ広がっていくイメージです。
- 層1:議会の内側
一般質問AI支援、会議のデータベース化。議員としての仕事の土台を、AIで整え直す。 - 層2:議会と行政の共通基盤
行政情報の横断検索、最新情報の自動収集。議会と行政の縦割りを緩め、同じ土台のうえで議論する。 - 層3:議会と市民の接続
デジタル民主主義の実証実験。これまで声を届けられなかった住民との接点をつくる。 - 層4:地域のリソースを、楽しみに変える
TFC(地域スポーツクラブ)を起点にした地域団体の運営支援モデル。別海町には100を超える団体があり、そこに使える「余白」を作りたい。
この4層は、どこか一つだけやればいい、というものではありません。議会の内側が整っていないのに外への発信だけ強化しても空回りしますし、市民との接点ばかりを作っても、議会の意思決定の質が伴わなければ意味がない。だから同心円として、少しずつ全体を整えようとしています。
具体的なプロジェクトの現状は、プロジェクトページで随時更新しています。
Chapter 7
「デジタル民主主義」には、よくある誤解がある。
4つの層のうち、最も誤解されやすいのが層3「議会と市民の接続」、いわゆるデジタル民主主義です。
「デジタル民主主義」と言うと、多くの人が「ITに強い若い世代向けのツールだろう」と反応します。実はその理解は、ちょうど逆です。
これまでの住民参加——集会、説明会、パブリックコメント——は、「関心を持ち、足を運ぶ」ことを前提としていました。この前提こそが、じつは多くの住民を排除していました。ITに不慣れな高齢者はもちろん、仕事や育児で平日夜・週末の集会に行けない現役世代にも届かない。既存の参加様式が、最も届かせたい人たちを遠ざけていたのです。
デジタル民主主義の本質は、「隙間時間に、自分のペースで、自宅から参加できる」というタッチポイントの柔軟さにあります。つまり、スマートフォンを使える若者より、むしろ忙しい現役世代や、外出が負担になりがちな高齢者にこそ向いている。電話ヒアリングをうまく組み合わせれば、ITを使わない方々にも十分リーチできます。
台湾のvTaiwan(オードリー・タン氏らが主導)が政策規模で機能することを実証し、Polisや「いどばた」のように日本語で使える道具も揃ってきました。難しいのはツールではありません。地域ごとのタッチポイント設計——適切な人に、適切なタイミングで、適切な形で参加機会を届ける——こそが本丸です。私はこの課題に、一人の議員として、別海町議会を通じて正面から取り組んでいきたいと考えています。
目指しているのは、一つの大きな声が押し通る政治ではありません。多くの小さな声が集合知として収斂し、より満足度の高い政策につながる合意形成。高齢化が進む地方にこそ、このプロセスが必要だと私は考えています。
Chapter 8
別海町という、小さな現場から。
この取り組みはすべて、北海道別海町という人口約1万4千人の酪農のまちで始まりました。日本の食を支える酪農と、秋鮭・ホタテの水揚げで知られる漁港を持つ、北海道東部の町です。
約10万頭の牛、広大な牧草地、四季折々の空——。こうした一次産業の現場には、まだデジタル化されていない膨大な知見が眠っています。ベテラン酪農家の勘、漁師が読む潮の流れ、長年の経験に裏打ちされた判断。
これらは、地方を静かに支えてきた、大地の記憶のような価値です。
この大地の記憶を次の世代へ橋渡しすることにこそ、AIの真価があるのかもしれない——そう考え始めています。都市部の効率化文脈でのAI活用とは別の、地方にしかできないAIとの付き合い方が、きっとあるはずです。
地方議会とAIがどう共存できるのか。まだ答えは出ていません。でも、少なくとも別海町で得られた試行錯誤の断片は、他の地方自治体にとっても使える「下書き」になると思っています。このサイトに刻み続けるのは、そのためでもあります。

Epilogue
このサイトは、実験の記録です。
このサイトは完成品ではありません。いま動いているプロジェクトの、最新の断面を常に書き換え続けていくメディアです。過去の歩みは各ページの下にある更新履歴として残しますが、本文は常に今の状態に上書きされます。
ですから、今日読んだ内容と、半年後に読む内容は、かなり違うはずです。「あのとき書いてあったことと違う」ということが、むしろ成果の現れだと私は思っています。
このサイトは、特に次の方々に届けばうれしいです。
- 同じ課題を感じている地方議員の仲間
- AIと公共の交差点に興味を持つエンジニア・研究者
- 議会を「難しそう」と感じている別海町の皆さま
- そして、地方での民主主義の再設計に関心のあるすべての人
ここに書かれていることは、私の信念でもあり、仮説でもあります。うまくいかなかったこと、方向転換したこと、そのすべてを含めて、ここに記録していきます。
情熱があれば、誰もが議員になれる。
AIがその足場をつくる。
これは私のなかから素直に湧き上がってきた思いです。この言葉に向かって、一歩ずつ進んでいきたいと思っています。
実際に動いている取り組みは、プロジェクトページへ。
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