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プロジェクト紹介シリーズ1回/全214

一般質問をAIと作る ── 支援システムの実践

公開 2026.04.20

一般質問をAIと作る ― 支援システムの実践
一般質問をAIと作る ― 支援システムの実践

一般質問という、議員の花形で、孤独な仕事

「一般質問をAIと作る」と聞いて、皆さんはどんな場面を思い浮かべるでしょうか。ChatGPTに指示を出して、できあがった質問文をそのまま読み上げる ── そんな情景かもしれません。結論から言うと、私がやっていることはそれとはかなり異なります。議員がAIを個人的に便利に使う、という話ではなく、一般質問の作り方そのものを、設計し直す ── そういう取り組みです。

一般質問は、地方議員の活動のなかでも花形と言ってよい仕事です。定例会ごとに議員一人ひとりが自分の問題意識を町政にぶつけ、理事者から公式の答弁を引き出す。議場で答弁席に立つ理事者の顔を見ながら、用意してきた論点を一つずつ当てていく時間は、議員にとって代えがたい手ごたえのある瞬間でもあります。

ところが、そこに至るまでの準備は、途方もなく孤独な仕事です。問題意識の種をどの政策分野に深く下ろしていくのか、法令や計画や統計をどう読み込むのか、質問の骨格をどう組み立て、どんな答弁を想定して次の一手を用意するのか ── これらはほとんどの場合、議員一人の机の上で進めていくしかありません。同じ議会に所属する同僚議員がいても、通告(一般質問を行う前に、質問内容を議長に提出する手続き)の前に中身を見せ合うという文化は、多くの議会にありませんでした。

別海町議会も、長くそうでした。私自身、議員になってからしばらくは、膨大な資料を一人で抱え、土日の深夜に自宅で原稿を書いては直し、書いては直し、という作業を繰り返していました。「この論点の立て方で本当に的を射ているのか」「根拠の読みに穴はないか」と自問しても、一人で考えているかぎり答えは揺らぎ続けます。

この、議員一人の孤独な苦闘を、別海町議会は大きく変えました。一般質問検討会議という取り組みを通じて、一般質問を「チームで磨く仕事」に変えたのです。本稿で私がお話ししたいのは、そこにAIという新しい要素が加わったとき、何が起きるのか ── という続きの話になります。

一般質問検討会議 ── チームで磨くという経験と、そこに残った"最初の一歩目"

一般質問検討会議は、簡単に言えば、定例会の一般質問に立つ議員全員が、通告前の段階でお互いの質問案を持ち寄り、議員16人全員で磨き合う場です。一人ひとりの原稿に、他の議員から論点の補強や角度の提案、言葉の厳密化、事実確認の指摘が入ります。答弁の引き出し方や質問の順序の助言も入ります。孤独だった机が、円卓に変わる瞬間です。

この仕組みには、法政大学の土山希美枝教授(以下、土山先生)にも議会サポーターとして継続的に関わっていただいています。土山先生は政策議会論・議会改革・一般質問の質向上・市民参加推進を長年研究されてきた専門家で、別海町議会の検討会議にも外部の視点から力強い助言をくださっています。議員同士の横のレビューに、研究者の縦の視点が差し込まれることで、論点の組み立ても、事実の検証も、明らかに厚みを増しました。

この取り組みは、第18回(2023年)マニフェスト大賞の優秀賞をいただくなど、外部からも一定の評価をいただきました。全国の議会からの視察も続いており、別海方式をどう自分たちの議会に持ち込むか、真剣に検討してくださる議会も増えています。

しかし、取り組みを継続している中で、一般質問検討会議のさらに手前に、もう一つの大きなネックがあると感じています。それは、円卓に載せる"最初の一歩目"が、依然として議員一人の机から始まる、という点です。

一般質問検討会議はチームで磨く場としては強力に機能します。けれど、そもそも磨く対象となる初期原稿を、議員一人が限られた時間で、限られた情報で組み上げるところは、昔と変わらず孤独な作業のまま残っていました。ここに、新しい道具を差し込めないか ── そう考え始めたのが、本稿で紹介する支援システムの出発点です。

一般質問検討会議 ― 議員全員が円卓で一本の質問を磨く
一般質問検討会議 ― 議員全員が円卓で一本の質問を磨く

支援システムの中身 ── ナレッジ・メソッド・エージェント

一般質問作成支援システムは、ごく大まかに言えば、ナレッジメソッドエージェントの3つの要素と、その外側にある議員の志から成り立っています。

3要素と議員の志 ― システム全体の俯瞰図
3要素と議員の志 ― システム全体の俯瞰図

ナレッジ、メソッド、エージェント、そして議員の志 ── 耳慣れない言葉もあるかと思いますので、先に一言ずつで全体像をお示しします。ナレッジとは、質問づくりの土台となる情報の束です。メソッドとは、その情報をどう扱い、どう組み立てるかの方法論です。エージェントとは、実際に作業を分担して動くAIの働き手です。この3つが揃ったところに、議員自身の志が指示の入口に立つ ── それがこのシステムの骨格です。エージェントについては頻出しますので、のちほど改めて詳しくお話しします。

ここはこの記事の本丸になりますので、少し密度を上げてお話ししていきます。

3-a ナレッジ ── 外から来る情報と、議会の内側に積まれた情報

一つ目は、質問づくりの土台となる情報の束、ナレッジです。ここには性格の異なる二種類が同居しています。

一つは、外から来る情報です。法令・条例、国と北海道の計画、国勢調査や各種白書といった統計、そして同じ課題にすでに取り組んでいる他議会の議事録や質問事例。もう一つは、議会の内側に積まれた情報です。別海町議会の議事録、過去の一般質問、決算カード、町の総合計画や行政執行方針。これらを、どのエージェントが参照しても同じ形で使えるように、出所と鮮度を保ったまま一箇所に集約しておきます。

ナレッジの整え方自体が、本来ひとつの独立した大テーマです。どう集め、どう分類し、どう鮮度を保つか ── ここは論点が多く、踏み込み出すと記事一本では収まりません。詳しくは、次回のプロジェクト紹介で改めてお話ししたいと思います。議会の内側の情報、特に議事録をどう使える形にしていくかについても、その先の回で触れる予定です。

本稿では、支援システムの中核には、こうして整えられた共通のナレッジがあり、そこから全ての作業が始まる ── この一点を押さえてください。

3-b メソッド ── 検討会議で磨かれた「質問の磨き方」と、研究の背骨

二つ目は、メソッド、つまりエージェントたちが動くときに踏むべき手順と判断基準です。一般質問という行為には、ぱっと見では分からない暗黙の作法がたくさん埋まっています。

たとえば、イシューをどう見極めるか。問いの立て方に詭弁や論点ずらしが紛れていないか。主張・根拠・結論の関係が明瞭に書けているか。政策提案の実現可能性と費用対効果、制度との整合をどう点検するか。そして、理事者答弁を引き出すために、質問の階層と順序をどう設計するか ── こうした「質問の磨き方」の方法論は、別海町議会の一般質問検討会議のなかで、議員同士のやり取りのなかに蓄積されてきました。

ここに、二つの柱が背骨として入ります。一つは、土山先生の研究 ── 政策議会論・議会改革の蓄積です。もう一つは、隣接領域の研究者の方々が書かれた書籍 ── イシュー設定論、議論論・論証論、監査論、情報収集論、戦略論・戦術論といった分野の知見です。これら、書物として積み重ねられてきた研究成果を、議会の現場で磨かれてきた実践知と突き合わせることで、「一般質問とはどういう思考の工程か」が言語化できる形になっていきます。

この言語化された方法論を、エージェントが参照できる文書として整えておくのがメソッドの役目です。エージェントの定義そのものに知識を埋め込まず、独立した文書として外に置き、必要なときに必要な章だけを読みに行く構造にしています。こうしておくと、方法論を一箇所で更新するだけで、全てのエージェントに一斉に反映されます。

3-c エージェント ── 5つの役割に手綱をかける

三つ目が、実際に手を動かすエージェントです。本システムは、一人の万能AIに全部頼むのではなく、5つの専門役を並べて、順番に動かす構造をとっています。

  • アナリスト(調査を担当する人):ナレッジを引き、論点を洗い出し、「この質問で本当に問うべきは何か」を明らかにする役。
  • ドラフター(下書きを書く人):アナリストの分析を受けて、通告書や想定問答の草稿を議会文書の体裁で起案します。
  • ファクトチェッカー(事実を検証する人):原稿に含まれる数値・年度・固有名詞・制度記述を、ナレッジと照合して検証します。
  • ロジックチェッカー(論理の整合を検証する人):イシューの適切性、論証構造、政策提案の妥当性、答弁を引き出す対話設計の4軸で、原稿の論理を評価する役。
  • オーケストレーター(全体を指揮する人):議員との唯一の窓口となり、モードを判定し、各役を呼ぶ順序を制御し、評価結果に応じて差し戻しを判断します。
5役のエージェントと差し戻しルート
5役のエージェントと差し戻しルート

肝になるのは、書き手と評価者を別人格に分けているという点です。ドラフターは原稿を仕上げることに専念し、ファクトチェッカーとロジックチェッカーは起草の過程には関わらず、出来上がった原稿だけを独立に評価します。評価の結果、事実に誤りがあればアナリストに戻してナレッジから取り直す。言い回しに問題があるだけならドラフターに戻して書き直す。論理の穴なら論証構造を再構築する ── こうした差し戻しのルートも、最初からメソッドとして決めてあります。

この、複数のAIに手綱をかけて協調させ、相互に検証させる設計手法を ハーネス・エンジニアリング(Harness Engineering) と呼びます。一人のAIを信じ切らず、役割分担と相互検証のしくみで品質を担保する。差し戻しは原則3回までと上限を定め、それを超えたら自動ループを止めて私の判断に委ねる ── こうした"止め方"まで含めて、ハーネスの一部として設計しています。

3-d そして、その外側にある「議員の志」

ナレッジ・メソッド・エージェント。この3つが揃えば、質問の下準備の密度は一気に上がります。しかし、この3つだけでは仕事になりません。3つの外側に、もう一つ欠かせない要素があります。議員の志です。

今回の定例会で、どのテーマを自分の質問に選ぶのか。なぜ今、それを追究したいのか。住民のどの声に重きを置いて、誰のために、何を動かしたいのか ── これらは、AIに決めてもらえるものではありません。現場に立ったときの手触り、住民と向き合ったときの心の動き、長年その領域に関わってきたからこそ持てる責任感 ── そうした、議員一人ひとりの内側から湧き上がってくるものです。

支援システムのしくみ全体は、この志を受け取って、はじめて動き始めます。志が指示の入口に立ち、三要素を貫いて、最後は質問席に立つ議員自身に戻ってくる ── その一本の線を途切れさせない、という設計を、私は最も大切にしています。

実装と手応え ── 試行錯誤の歴史、作成テスト、6月定例会

ここで少し、抽象的な話から離れて、自分が実際に歩んできた道をお話ししたいと思います。構造論だけを書き連ねると、最初から完成形が頭にあったように読めてしまいますが、実際はまったく逆で、ここに至るまでにはずいぶん遠回りをしてきました。

私のAI活用の試行錯誤の系譜を、順に並べるとこうなります。ChatGPT で対話型AIの感触を掴み、Gemini で別のAIのクセを知り、Genspark で検索連携の発想に触れ、Claude で文章生成の質に驚き、NotebookLM で自分で与えた資料の中から答えさせる運用の手ごたえを得て、そして Claude Code で初めて、複数のエージェントに役割を持たせて連携させる世界に入りました。ChatGPT と Claude Code のあいだには、AIを「便利な相談相手」として使う段階から、AIを「工程を持った働き手の集まり」として組み上げる段階への、質的な飛躍があります。

AI遍歴 ― ChatGPTからClaude Codeへ
AI遍歴 ― ChatGPTからClaude Codeへ

ひと言添えておくと、議員がリサーチや作文のサポートに生成AIを活用することは、もう特別なことではありません。全国の議員のなかにも、ChatGPTやGeminiで下調べや文章の整えを行っている方は確実に増えています。本稿でご紹介している一般質問作成支援システムは、そうした「個々の議員が便利に使う」段階から、もう一段踏み込んだ話です。仕事の工程そのものを設計し、複数のAIに分業させて回す、いわば、調査役・書き手・複数の校正者を揃えた専属チームを、個人で手元に持つような取り組みだと受け止めていただければと思います。普通の地方議員が一人で揃えることは難しい陣容です。

今回ご紹介しているこの形での本格運用は、令和8年6月定例会が正式デビュー予定になります。それに向けて、いまは70代から80代の同僚議員3人の一般質問づくりを、この仕組みで支援しているところです。

この新しく作った仕組みでの試運転そのものは数回にとどまりますが、今のシステムにたどり着くまでには、数えきれないほどの試行錯誤を積み重ねてきました。別のかたちで作り直しては回し、直してはまた回し ── そうした地味な積み上げの延長線に、いまの形があります。

試運転で、土山先生からは「極めて高いクオリティで質問が構築されており、驚くとともに大変興味深く感じている」という感想をいただきました。一人の議員が自宅の机で組み上げた原稿としては、非常に高い水準にまで来ている ── そう言っていただけたことは、私自身にとっても大きな手ごたえになっています。

AI活用にとっつきにくいと言われがちな70代から80代のベテラン議員3人が、自分の質問づくりの過程に新しい道具をしっかりと組み込み、自分の問題意識をより精度高く表現しようと挑戦してくださっている ── この事実そのものが、一般質問検討会議という土壌で長年培われてきた「学び合う文化」の強さを示しているように思います。具体の通告内容は6月定例会を経てからお話しするべき段階なので、ここでは人数だけに留めておきます。

AIが平準化するもの、際立つもの

ここまで読んでくださった方のなかには、別の不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。「議員みんながAIを使って同じような質問を出してきたら、議員の個性は消えてしまうのではないか」── もっともな問いです。

このシステムを構築・運用しながら、私自身もこの論点はずっと考え続けてきました。いま現時点での私の答えは、こうです。AIが入ることで平準化されるものは、確かにある。しかし、平準化される分、平準化できないものが際立ってくる。そして、そこは議員の仕事の本丸そのものである、と。

AIによって一定水準まで底上げされるのは、主に次の3つだと私は見ています。

  1. リサーチ能力
  2. 論理的な文章構成能力
  3. 推敲と事実確認能力

この3つは、本来、どの議員も一定の水準に届いていて欲しい部分です。同時に、ここは長年「議員ごとの差が大きい」と言われてきた領域でもありました。AIが入ることで、この差の"下側"が引き上げられ、議員全員が一定の水準から出発できるようになる。これは歓迎すべき変化だと私は思います。

では、平準化される外側に何が残るか。たとえば、その議員が歩んできた人生から立ち上がってくる現場の手触り。長年の地域活動で築いてきた住民との関係。ものごとの見方に宿る切り口の独自性。そして、なぜ今この問いを立てるのかという志。これらは、AIがいくら進化しても、持ち得ないものです。

議員はそれぞれ違う人生を歩み、違う仕事をしてきて、違う地域で住民と関わってきました。農業畜産、漁業、福祉、教育、中小企業、地域交通、子育て、高齢者介護 ── どの分野に強い関心を持ち、どの現場の感触を持ち、どの住民の声を一番近くで聞いているか。ここは、ひとり一人の人生そのものに根ざした領域です。

そして、ここが重要な点なのですが、AIがどれほど高いクオリティで出力を返してきても、それだけで良い一般質問になるわけではありません。議場で交わされる議論は、書かれた質問文の外側に広がっています。AIから返ってきた文章を、自分の言葉として腑に落とすまで読み込み、その分野の勉強を重ね、想定問答を自分の頭で何度も繰り返し、議場で自分の声として発する。その一連の作業を行い、質問席に立つところまでが、議員の仕事です。この部分は、道具がどれほど進化しても、議員本人から剥がすことはできません。

AIが平準化するのは、ここに立つための足場の高さです。足場が揃うと、その上に立つ一人ひとりの姿勢・視線・言葉の選び方の違いが、むしろ鮮明に見えるようになります。私は、AIが議員の個性を奪うのではなく、議員の個性がどこに宿るのかを、これまで以上にはっきり照らし出す道具だと受け止めています。

AIで平準化されるもの/平準化されても残るもの
AIで平準化されるもの/平準化されても残るもの

一般質問検討会議の、次のフェーズへ

議員個々の準備にAIが入ることで、通告書案は一定の水準まで到達できるようになってきました。では、そのレベルに達した質問を全員が持ち寄ったとき、一般質問検討会議は何をする場になるのか。論点の鋭さ、物事の見方の切り口、議員それぞれの個性を活かしたアプローチ ── そこを全員で学び合う場へと、議論のフェーズが一段上に引き上がっていく。私はいま、そういう未来を思い描いています。

全員が、自分の志と自分の現場を携えて、しかし一定水準に整った通告書案を持って円卓に着く。そこから始まる対話は、これまでの一般質問検討会議の延長線上にありながら、確実にもう一段厚みを持った議論になるはずです。そしてそれは、別海町議会だけの取り組みに留めるべきものではなく、同じような土壌を育てている議会となら、きっと共有していける未来でもあります。

一般質問をAIと作ることの本当の意味は、便利な道具を手に入れるところにはありません。議員一人ひとりの志と個性が、これまでより鮮やかに議場に届く ── その道筋を、仕組みの側から支えることにあると、私はいま考えています。